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神楽坂3丁目(写真)昭和28年 ID 9506

文学と神楽坂

 新宿歴史博物館「データベース 写真で見る新宿」ID 9506は、昭和28年以降、おそらく神楽坂3丁目をねらっています。

新宿歴史博物館「データベース 写真で見る新宿」ID 9506 神楽坂

 車道は凹凸が目立ち始め、将来できるOリングはなく、急峻な坂は石敷でした。歩道の構成は車道の側から縁石、外コンクリート3列、細い石、内コンクリート2列です。縁石はかなり薄く、隣の店舗同士では階段のような差がありました。中央に雨水を流すへこみがあり、側溝はありません。
 竹か笹が各店舗から1本ずつ、車道に向かって斜めに立っています。リボンや紐状の飾り、小さな提灯が下がっています。「全店大賣出し 神楽坂」ののぼり旗もあります。
 人々は半袖で、明るい色の夏服を着ています。おそらく七夕シーズンの7月ごろ、商店街の中元セールの写真でしょう。
 中央には街灯の基礎だけがあります。その向こうはポールも立っています。これは昭和28年頃から昭和36年頃まで続いた、鈴蘭の花をかたどった鈴蘭灯の下部です。しかし上の照明(花の部分)はついていません。一方、道路の反対側には坂下に向けて簡素で背の低い丸い電球1灯の街灯(ID 30ID 4792等)が立っています。
 おそらくこの時に、街灯を交換しました。街灯の基礎やポールが黒いのはさび止めの状態で、まだ塗装していないからと思われます。ID 12125~12127の貴重なカラー写真では鈴蘭灯は白っぽく塗られています。実際にはライトグレーか銀色だったでしょう。

都市製図社『火災保険特殊地図』昭和27年

神楽坂3→2丁目(昭和28年以降)
  1. パーマネント。マーサ美容室。二階建て
  2. 神楽坂仲通り
  3. 電柱看板「旅館 碧運」「 大久保質店」
  4. さわや。二階建て
  5. 亀井鮨。平屋
  6. 壁面一杯に「ニューイトウ」
  1. 岡田印房(地図では岡田印章)。「表札 看板 名刺」「星名刺」
  2. 助六 二階建て
  3. 龍公亭 平屋
  4. (建築中)
  5. 看板「新しいカット コールド〇 パーマネント」(ビデパーマ)
  6. (山本薬局)
  7. 神楽坂仲坂
  8. 自立看板「みい〇」
  9. 電柱看板「 大久保質店」
  10. 電柱看板。床屋のサインポール(管理髪館)

神楽坂の立廻り

文学と神楽坂

 中村武志氏の「目白三平のあけくれ」(講談社、昭和32年)では……

 戦争前の神楽坂を知っている者は、今の神楽坂のさびれようは、尋常一様ではないという感じだ。冬でさえ相当な人出であったが、気候のいい頃は、夕食後にでもなれば、道いっぱいに動きが取れぬほどのにぎわいで、毘沙門天を中心にして夜店も毎晩出ていたものだ。今は五の日に、わずかばかり夜店が出て、昔の名残をとどめているが、それがかえってわびしい思いを与えるのだ。
 現在は、だいたい両側とも店舗が並び、形の上ではすっかり復興したかたちだが、家並から受けた戦前の和かさやなつかしさは、今は殆んど感じられない。
 国電飯田橘駅で降りて、都電を横切り、神楽坂にかかると、あのゆるやかな勾配の坂を登って行くのも、今は億劫な思いがするのだが、昔は一晩のうちに、幾度でも登ったり降ったりして、散歩を楽しんだものだった。
 下から登って行くと、右側の今の神楽小路をはいった「ダンス教室」のあたりに、「つたや」というビリヤードがあった。眼の切れ長の綺麗な娘さんがいて、ゲームを取っていた。昭和五年頃のことだが、私の友だちのS君は、この娘さんにすっかり夢中になって、学校の方よりここへ通学していた方が多かった。私も度々S君のお供をした。
 その当時、私たち四、五人の仲間で、短歌を作っていて、一ヵ月に一回くらい歌会なども開いていた。どういうキッカケからか忘れたが、ビリヤードのおやじさんが、私たちに短冊を書いてくれと云った。思いあがっていた私たちは、下手な歌も構わず、それぞれの自作を得々として短冊に書いた。
 おやじさんが、その短冊をビリヤードの壁に飾った。それが原因で、そのビリヤードに通っていた日本歯科の学生と喧嘩になった。
「学校を怠けて、歌なぞ作るのは怪しからんではないか」
 と、日本歯科の学生が云った。
「君たちだって、学校をさぼって、玉ばかり突いているではないか」
 と、S君が反駁した。すると、日本歯科の学生は、
「いや、僕たちは、玉だけだが、君たちは玉を突く上に、短歌も作っているではないか。学生が短歌を作るとは生意気だぞ」
 と云った。そして、彼等は、ビリヤードの壁に飾ってあった私たちの短冊を、みんな引きちぎって捨ててしまった。その時の私の歌に、
  教師なる友を訪ねむ木曾山の
    峡路ほそぼそ朝時雨する
 というのであった。ほかの歌はみんな忘れてしまったが、これだけは不思議に覚えている。日本歯科の学生の暴力が、ひどく癪にさわったせいだろう。
さびれる さびしくなる。人が離れ、以前のにぎわいがなくなる。
尋常一様 ごくあたりまえで、格別に他と変わらない。普通と異なることのない。
五の日 毎月5日(あるいは5日、15日、25日)に縁日として夜店が出てにぎわう
家並 家々が並んでいること。他の家と同じくらいであること
国電 旧日本国有鉄道の電車。JRになりました。
都電 当時は外堀通りにチンチン電車(都電)が走っていました
つたや 戦前の「つたや」は戦後の「小柳ダンス」だとすると「つたや」は下図になります。

つたやと小柳ダンス

切れ長 目尻が細長く切れ込んでいること
短冊 たんざく。和歌・俳句などを書くための細長い料紙(りょうし。書きものをするための紙)。ふつう、縦36センチ、横6センチぐらい
日本歯科 千代田区富士見にある歯科大学。

日本医科大学

癪にさわる  物事が気に入らなくて、腹が立つ。気にさわる。かんにさわる。