神楽坂|石垣りん

文学と神楽坂

『略歴-石垣りん詩集』から。 詩は1976年9月『歴程』に発表。

神楽坂

いつか出版クラブの帰りみち
飯田橋駅へ向かって
ひとりで坂を下りてゆくと。
先を歩いていた山之口貘さんが
立ち止まった。
貘さんは
背中で私を見ていたらしい。
不思議にやさしい

大きな目の人が立ちはだかり
あのアタリに、と小路の奥を指さした。
「ヘンミユウキチが住んでいました」
ひとこというとあとの記憶が立ち消えだ。
私は「このアタリに」と指さしてみる。
山之口貘さんが立っていた、と。

石垣りん 詩人。生年は1920年(大正9年)2月21日。没年は2004年(平成16年)12月26日)。4歳の時に生母と死別、以後18歳までに3人の義母に。小学校を卒業した14歳の時に日本興業銀行に事務員として就職。以来定年の55歳(1975年)まで勤務しました。
出版クラブ 日本出版クラブは、「出版界の総親和」という精神を掲げ、1953年9月に設立されました。新宿区の神楽坂通りからわずかに離れた袋町にあります。
山之口貘 やまのくち ばく。詩人。生年は1903年(明治36年)9月11日。没年は1963年(昭和38年)7月19日。放浪と貧窮の中で風刺とユーモアを感じさせる詩作。
ヘンミユウキチ 逸見猶吉。詩人。生年は1907年9月9日。没年は1946年5月17日。1928年、21歳の頃、神楽坂で酒場「ユレカ」を経営。壮大でニヒル、暗い詩風でした。

文学と神楽坂

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