文学と神楽坂
小野十三郎全詩集 1924年6月発行『赤と黒』号外
神楽坂、今日は⁉︎
黄桜の悽愴な枝を担いで
僕は
神楽坂を登つてゐた
三月だ
泣いても笑つても
手品のやうな詩的仮構だ
でつちあげた妄想と
虚栄心の強い狂人を抱いて
さて何 に尖鋭な悩みがあつたか
僕はしかも挨拶をしなければいけない
「神楽坂、今日は」
おの とおざぶろう、本名は小野 藤三郎。詩人。生まれは1903年(明治36年)7月27日。没年は1996年(平成8年)10月8日。伝統的抒情を否定し、批評性、即物性に富むリアルな詩風を確立
文学と神楽坂